| 本格的な長編映画デビューは、監督・脚本・出演を兼ねた『のんき大将脱線の巻』''Jourdefête''(1949年)。 |
| フランスの片田舎の郵便配達人が、アメリカ式合理主義に影響されて、自転車で駆け回りながら騒動を巻き起こすコメディ映画であった。 |
| この作品はモノクロ映画として当初上映されていたが、実は同時に2色方式トムソン・カラーによるフランス最初の長編色彩映画として全編撮影されていた。 |
| 公開当時は技術的な困難さのために、このカラー・ヴァージョンは公開できなかったが、1995年彼の娘を中心にシネマテーク・フランセーズによって復元され、日本でも劇場公開された。 |
| この作品の舞台は、タチがドイツ占領下のパリを逃れて住んだサント・セヴェールという小さな村で、その村が大変気に入って、映画の舞台に選んだ。 |
| 次回作以降、のっぽで小さい帽子をかぶり、吸口の長いパイプをくわえ、レインコートと寸足らずのズボンを着用した無口な主人公「ユロ氏」のキャラクターを確立させ、以後自作自演で映画に登場することになる。 |
| ちなみに英国のローワン・アトキンソンのインタビューによると「ミスター・ビーン」のキャラクターにも大いに影響を与えていたとの事である。 |
| 長編第2作は『ぼくの伯父さんの休暇』''LesVacancesdeMonsieurHulot''(1953年・モノクロ映画)。 |
| ユロ氏がフランスの浜辺の高級リゾートに現れ、8月の優雅なバカンス地に大騒動を巻き起こす。 |
| ユロ氏を中心にコミカルなエピソードが次から次へと繰り広げられるが、ほとんどサイレント映画の様な視覚的なドタバタに終始している。 |
| サウンドトラックは英語版・フランス語版の2種類作られたが、ほとんどが音楽とサウンド・エフェクトを占めていて、独特の音響センスに満ちている。 |
| この作品は米国のアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされ、また後のヌーヴェルヴァーグの批評家にも大絶賛された。 |
| 長編第3作は『ぼくの伯父さん』''MonOncle''(1958年)。 |
| 日本ではこちらの方が早く公開されたため、『ぼくの伯父さんの休暇』とは直接の関係はない。 |
| パリの古い下町に住む、ぼくの伯父さんことユロ氏が、自動化されアメリカナイズされたモダンな住宅やプラスチック工場で悪戦苦闘するコメディである。 |
| この作品では、そのモダンな住宅のセットも話題になり、タチのモダニスト的な資質にも注目された。 |
| この映画は、米国アカデミー賞の最優秀外国語映画賞を受賞した。 |
| 長編第4作は、大作『プレイタイム』''Playtime''(1967年)。 |
| タチは私財をなげうって、ほぼ10年がかりで、この超大作を作り上げた。 |
| 近未来のパリということで、高層ビルが林立する一つの都市をつくりあげてしまった。 |
| この作品では、ほとんどプロットというのが無く、ユロ氏と一団のアメリカ人観光客がこの街を彷徨う中、その中からフランスの古き良き伝統を発見するというコメディ映画である。 |
| 当時フランス映画史上最大の製作費をかけ、しかも高画質にするため70mm磁気6チャンネルのフォーマットを使って壮大な世界を作り上げた。 |
| 『プレイタイム』のオリジナルは155分の長尺であったが、彼自身の手で126分まで短縮され、しかも経理上の問題から、次々と短縮され、米国での公開ヴァージョンでは93分モノラルまでカットされ公開された。 |
| 公開当時は一部の批評家には絶賛されたが、多くのマスコミから酷評を受け、興行的にも惨敗であり、その失敗は一生彼にまとわりついた。 |
| その後2002年になってようやく、カンヌ国際映画祭の歿後20周年記念上映で126分70mmヴァージョンが復元された。 |
| 『プレイタイム』製作中に資金難に陥り、製作が一時止まったとき、短編『ぼくの伯父さんの授業』''Coursdusoir''(1967年)が撮られる。 |
| これは、ユロ氏が彼のコメディを出来の悪そうなコメディアンに伝授するという内容であった。 |
| この中には郵便配達人フランソワの姿も見られ懐かしい。 |
| タチは彼の作品の登場人物一人一人の動きをまるでバレーの振付師のように実演して見せたという(女性の場合は女装してまで実演した)。 |
| 画面構成も俳優の動きまであくまで完全主義であったのである。 |
| 長編第5作は、比較的低予算の『トラフィック』''Trafic''(1971)である。 |
| この作品は、ユロ氏が自動車デザイナーとなって、アムステルダムで開かれるモーターショーに、自ら設計したキャンピングカーを運転していくコメディ映画である。 |
| ここでは、モータリゼーションの発達やコミュニケーションの困難さを背景にしているが、あくまでそれは映画の背景であり、道中日常的な渋滞やさまざまな事故に巻き込まれながらもスマートに演出されている。 |
| 遺作となったのは、スウェーデンのテレビ局のために監督・脚本・主演したテレビ映画『パラード』''Parade''(1974)である。 |
| 2人の子供が訪れたサーカスを舞台に繰り広げられるショーの模様を温かいタッチで描いたコメディである。 |
| タチはサーカス団の団長を演じて、年齢を感じさせない、達者な動きを見せている。 |