| 線的素材に基づく作曲からスタートし、反復(のようなもの)や引用(のようなこと)などを取り入れたユーモラスな音楽を作曲している。 |
| 現在では言葉と音楽のシニカルな関係も追究し、作風の幅が広がりつつある。 |
| 日本のアカデミックな音楽業界から距離を置いた姿勢、映画、美術、その他あらゆるアートに対する博学な知識と探求心は、彼の作品に独特の個性と輝きを与えている。 |
| 作品の傾向は大きく4つにわかれ、(1)反復もの、(2)句読点シリーズ、(3)語りもの、そして映画音楽、である。 |
| これら4つの傾向は一見無秩序にみえるが、詳細に検討すると、そこには美学的立場とでも言うべきもので共通したものが垣間見える。 |
| (1)-反復ものは、電子音楽「システマティック・メタル」や「ForSteveReich」、あるいはクラリネットとオーボエのための「Hiccup」、スル・ポンティチェロの音色が悩ましく聞こえ続けるヴァイオリンとピアノの「二重の鍵」などでさまざまに試みられている、ある素材の反復的操作を中心としたもので、作例のわかりやすい説明としては、「1、12、123、…」。 |
| つまり、準備したメロディなり電子音なり、何らかの素材を何らかの規則に従い反復していくのだが、例えば「二重の鍵」などではさらに、反復するごとに調性をずらすなどして、反復された際の違和感を増す仕掛けが組まれる。 |
| こうした、直線的に進行すべき流れを非常に客観的に、ある種暴力的に、切断することへの好みは鈴木治行の作品の特徴の中でもとりわけ重要である。 |
| このテクニックはかつて18世紀のロココ楽派の作曲家が使った「不等音符」のテクニックとも関連性が指摘されているが、「不等音符」が演奏家の上品な趣味を強調するために使われた技術であるのに対して、鈴木のそれは聴覚的なバランスの不一致に向けられている。 |
| (2)-句読点シリーズではこの好みがより明確な形で示されており、鈴木治行自身は「関節はずし」あるいは「脱臼」といった言葉でこれを説明している。 |
| 句読点シリーズはソロ楽器のためのシリーズで、現在までに7作書かれている。 |
| このシリーズで探求されているのは、あらかじめ用意された素材の流れの中にマイルス・デイビスやバッハなどの異素材を断続的に挿入する事で、音楽に楔を打ち込み、脱臼させるというもので、挿入される異素材は聴覚上にマンネリズムを生まないよう複数用意され、周到にタイミングを計られ組み込まれる。 |
| 彼はこれを「耳に引っかかる」と説明している。 |
| 現在はさらに、(1)と(2)の傾向の間に位置するような作品なども書かれている。 |
| (3)-語りものは、鈴木治行作品の中でも特にユニークなものである。 |
| この作品は語りと複数の楽器、あるいは歌手により演奏されるが、これまでに5曲作られているこの形態の作品は過去に類似例を見出しにくく、アカデミックな現代音楽の世界からの離脱という彼のスタンスの終着点のひとつともいえるような独自の世界を構築している。 |
| 簡単に言うと、語りものでなされるのは、複数の流れの独立した進行と同期の実験とも言うべきもので、あるテクスト(それは時に物語を語り、時に同時に起こっている音楽上のeventに言及し、また時にそうした音楽上のeventについて偽りを言う)が読まれ、用意された音楽素材が複数の奏者によって演奏されるのだが、それらは個々別々の流れをもっている。 |
| 例えば「陥没ー分岐」においては、歌曲を歌うソプラノ歌手とピアノ、唄を歌うヴォーカルとキーボードがそれぞれ、歌曲、唄を同時に歌うような状況が何度も訪れる。 |
| それぞれはそれぞれのスタイルで歌唱し、演奏するのであって、さらにそこに語りが介入し、不可思議な音響空間を生む。 |
| これらばらばらに見える複数の流れはしかし、ある演奏者の演奏が他の演奏者の合図となるように仕組まれ、ところどころ同期され、非常に特異な音楽的やり取りの場が生まれる。 |
| 「伴走-齟齬」においては、商業音楽のイディオム寄りの爛れたピアノが突然無関係に線的な素材を挿入されるかと思うと、トモミンはピアノに合わせて「歌を歌う」。 |
| 発振音で声楽をまねるアイディアは一柳慧も同種のシアターピースで用いているが、今作ではトモミンが通常の「発振器」としての役割に突然返り、可聴域を大きく横断するシーンが、語りと組み合わされる。 |
| 聴き手は、「語りの内容に付随した音響がなっているのだろう」といった従来の感覚を曲の随所で大きく揺さぶられる。 |
| これら「語りもの」は、例えばフランスの作曲家リュック・フェラーリ、そして作家・映画監督でもあるマルグリット・デュラスの影響を受けていると鈴木本人も言っているが、90年代に作られたインスタレーション「循環する日常生活」における、家電製品のスイッチが他の家電製品の動きに連動され、連鎖して行くというコンセプトと通じる面があるという指摘がある。 |
| 現在までに書かれた語りものは、(1)や(2)などと異なり全てが同種の技法に収斂されない。 |
| なお、ジャンル分けの難しい音楽であることを象徴するエピソードとして、CD「語りもの」は、タワーレコードではアヴァンギャルドコーナーに、HMVではロックの試聴コーナーに、山野楽器では朗読もののコーナーにそれぞれ置かれ、また、細かいジャンル分け(ジャズ・クラシックと、クラシック・ジャズを区分する)で知られるCDジャーナル誌では珍しい<その他>ジャンルのCDとして扱われた。 |
| 発売元のHEADZは、主にポストロックのレーベルである。 |