| (長篇、短篇を問わず、すべて |
| 『メアリ・バートン』(''MaryBarton'',1848)。 |
| 1834-40年のマンチェスタを舞台に、工場主の息子ハリー・カースンを殺害するに至った労働者ジョン・バートンの愁苦と、ハリーを捨て幼なじみのジェム・ウィルスンを選ぶ彼の娘メアリ・バートンの恋路を軸に、労働者階級の日常を克明に描いた作品。 |
| 殺人犯の嫌疑をかけられたジェムを救うためにメアリが証人探しをするくだりの冒険小説なみの迫力もさることながら、注目すべきは、ジョンとエスタという二人の罪人の描写に投影された、作者の人間愛である。 |
| 冷酷な工場主たちへの見せしめという大義名分も、息子を失った苦痛を切々と訴える父親の前では、何の意味も持たない―そのことを知ったジョンは、慚愧と自責の念に苛まれながら死んでいく。 |
| 私生児となった娘を救うために春をひさいだエスタは、更生させようとするジェムの優しさを拒み、別れのキスをしようとするメアリを突き放して、自己の罪の重圧に泣く。 |
| そのような二人を、読者は知らず知らずのうちに赦している。 |
| 『荒野の家』(''TheMoorlandCottage'',1850)。 |
| 『クランフォード』(''Cranford'',1851-52)。 |
| ギャスケルの故郷ナッツフォードをモデルにした架空の町クランフォードを舞台に、この田舎町に生きる人びとの日常を淡々と描く。 |
| 一見平凡な暮らしの中にも、大小さまざまな事件は起こり、それらについての人々の反応が、時には滑稽に、時には哀感を込めて描かれる。 |
| 近隣の都市に住むメアリが、クランフォードにあるデボラ、マティの中年姉妹の家に滞在し、そこで見聞きしたことを語る形で、物語は進行する。 |
| 作品の基底を流れる精神は、弱者へのいたわりと道徳的高潔さである。 |
| 『ルース』(''Ruth'',1853)。 |
| 16歳のルースが恋人ベリンガムに捨てられた時、お腹の中には赤ちゃんがいた。 |
| そうとは知らずに、彼女を保護した牧師ベンスンとその姉。 |
| 世間体を気にして動揺する姉に、ベンスンは言う、「この子はルースを更生させるために送られた神の使いだ」。 |
| 8年後、未亡人を装い、息子を育て、ささやかな平穏を得ていたルースの前に、自分を捨てた男が現れる。 |
| ベリンガムの求婚を彼女が拒否したのは、彼との間に、魂の深さにおいて、大きな隔たりを感じたからだ。 |
| やがて彼女の過去が明らかになり、真実を隠していたことを責められたベンスンは、「ルースのような女性には、贖いの機会が与えられるべき」と言明する。 |
| 犯した罪は同じなのに、なぜ社会は男には寛容で女には冷酷なのか。 |
| 人間の偽善を告発し、ルースの心の気高さを謳う。 |
| 『北と南』(''NorthandSouth'',1854-55)。 |
| 牧師を辞めた父に伴ってイングランド北部の工業都市ミルトンにやってきたヘイル一家。 |
| マーガレットの、青年工場主ジョン・ソーントンとの交わりは、こうしてはじまる。 |
| 労働者ヒギンズとも知り合った彼女は、おのずと労資対立の仲介役を務めることになる。 |
| 専制的なジョンに、「神様はお互いに助け合うように人間をお造りなったは」と反論するマーガレット。 |
| そんな彼女を彼は次第に愛するようになる。 |
| 社会問題と二人の恋愛が平行して物語は進む。 |
| ジョンの恋の行方は最後の最後まで分からない。 |
| 『シャーロット・ブロンテの生涯』(''TheLifeofCharlotteBronte'',1857)。 |
| ギャスケル(39)がシャーロット・ブロンテ(34)と知り合ってから5年足らずで、シャーロットは病死する。 |
| 父ブロンテ師の依頼を受けたあと、ギャスケルは精力的に『ジェイン・エア』の作者の足跡をたどり、1年8ヶ月でこの伝記を書き上げた。 |
| 「シャーロットが、勇敢に、かつ信仰に堅く立って、試練を耐えとおしたことを描写する」と、ギャスケルは彼女の親友に語り、原稿を読んだその人は、「シャーロットの生涯と性格が正確に記されている」と述べた。 |
| 『ラドロウ卿の奥様』(''MyLadyLudlow'',1858)。 |
| 『ソファーを囲んで』(''RoundtheSofa'',1859)。 |
| 『闇夜の仕事』(''ADarkNight'sWork'',1863)。 |
| 『シルヴィアの恋人たち』(''Sylvia'sLovers'',1863)。 |
| 物語は、18世紀末のイギリスの漁港モンクスヘイヴンを舞台に、酪農家の娘シルヴィアと、彼女を真摯に愛する洋品店の店員フィリップ、そして、彼の恋敵でシルヴィアと婚約する捕鯨船の銛打ちチャーリー、の三人を軸に、フィリップを密かに慕うヘスタを絡めて、展開する。 |
| シルヴィアを得るためなら14年でも待つ覚悟のフィリップ。 |
| 彼の想いは、果たしてシルヴィアにとどくのか。 |
| 報われない愛に耐えるヘスタの人生はどうなるのか。 |
| 「愛が真実なら、けっして絶えることはない」—全編を流れる波の永遠性に絡めて、そんなメッセージが聞こえてくる。 |
| 『従妹フィリス』(''CousinPhillis'',1863-64)。 |
| 思春期の少女の淡い恋は、相手の青年の旅立ちとともに、深い悲しみへと変わっていく。 |
| 失恋の痛手からいつまでも立ち直れないでいるフィリスを、召使いベティが一喝する、「みんなができるだけのことをしました。 |
| お医者様も、神様も。 |
| ご自分でも何とかなさらなければ罰が当たります。 |
| わたしなら、手に入らないものはさっさと諦めて、父や母にいつまでも心配をかけるようなことはしません」・・・。 |
| フィリスは、やっと前を向いて歩き出す。 |
| 『妻たちと娘たち』(''WivesandDaughters'',1864-66)。 |
| 父の再婚により、新しい母ハイアシンスとその娘シンシアと同居することになったモリー・ギブスン。 |
| 価値観の違いにとまどいながらも、彼女は新たに姉妹ができたことを喜んでいた。 |
| ハイアシンスは近所に住む由緒あるハムリー家の兄弟にシンシアを嫁がせようとする。 |
| 次男のロジャーがシンシアに魅せられ、彼女に求婚する。 |
| 2年間英国を離れることになっていた彼は、彼女を束縛しないために、婚約の公表を控えた。 |
| そんなロジャーの誠実さに、コケティッシュなシンシアは似合わない。 |
| 心を痛めるモリーは、彼を密かに愛していた。 |